神戸地方裁判所 平成8年(ワ)1797号 判決 1998年1月29日
反訴原告
堤冨美子
反訴被告
兵庫県キャブ株式会社
ほか一名
主文
一 反訴被告らは、反訴原告に対し、各自金三七〇万七三二〇円及びこれに対する平成七年九月二九日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
二 反訴原告のその余の請求をいずれも棄却する。
三 訴訟費用はこれを一〇分し、その七を反訴原告の負担とし、その余を反訴被告らの負担とする。
四 この判決の第一項は仮に執行することができる。
事実及び理由
第一請求
反訴被告らは、反訴原告に対し、各自一二五四万七八一四円及びこれに対する平成七年九月二九日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
第二事案の概要
本件は、後記の交通事故(以下「本件事故」という。)によって傷害を受けた反訴原告が、反訴被告兵庫キャブ株式会社(以下「反訴被告会社」という。)に対して自賠法三条に基づき、反訴被告黒田好彦(以下「反訴被告黒田」という。)に対して民法七〇九条に基づき、それぞれ損害賠償を求めた事案である。
なお、付帯請求は、本件事故の発生した日である平成七年九月二九日から支払済みまでの民法所定の年五分の割合による遅延損害金である。
一 争いのない事実等
1 本件事故の発生
(一) 発生日時 平成七年九月二九日午後四時三〇分頃
(二) 発生場所 神戸市中央区布引町四丁目一番先交差点
(三) 加害車 反訴被告会社所有、反訴被告黒田運転の事業用普通乗用自動車(神戸五五え七一一四)
(四) 事故態様 反訴被告黒田が加害車を運転して東進中、北進車が出現し、反訴被告黒田が急ブレーキをかけたため、同車後部座席に座って進行方向左側(北側)を見ていた反訴原告が衝撃で上体が前方につんのめるような状態となった。
2 反訴原告の受傷内容、程度及び治療経過
反訴原告は、本件事故により、頸椎部挫傷、腰部挫傷、左上肢打僕、外傷性筋筋膜性腰痛症、頸肩腕症候群の傷害を受けたとして、次のとおり通院治療を受けた。
(一) 平成七年一〇月二日から平成八年一月二八日まで小原病院に通院(実日数三八日)
(二) 同月二九日から同年六月一四日まで神鋼病院通院(実日数四〇日)
3 責任
(一) 反訴被告会社は、加害車を保有し、本件事故当時、自己のため運行の用に供していたものであるから、自賠法三条により、反訴原告が受けた損害を賠償する責任がある。
(二) 反訴被告黒田は、タクシー運転手として、交差点において他車の有無、動静に注意して運転し、乗客の安全を守るべき注意義務があるにもかかわらず、これを怠り漫然進行したことにより急ブレーキをかけた過失があるから、民法七〇九条により、反訴原告が受けた損害を賠償する責任がある。
二 争点
1 反訴原告の受傷の内様、程度及び本件事故との因果関係
反訴被告らは、タクシーの後部座席にいた乗客である反訴原告が、急ブレーキにより衝撃を受けたとしても、受傷したことについては大いに疑問があり、仮に受傷したとしても、一か月足らずで治癒したものと考えられる旨主張する。
反訴原告は、反訴被告黒田の急ブレーキによる衝撃は大きく、現在の後遺症状も強く、自賠責保険後遺障害等級一二級一二号(以下単に「何級何号」とのみ略称する。)に該当する旨主張する。
2 反訴原告に生じた損害額
第三争点に対する判断
一 争点1について
1 証拠(甲一の一・二、二、四、乙一、三ないし五、八、九、一二、証人西田、反訴原告、弁論の全趣旨)によると、次の事実が認められる。
(一) 反訴原告は、本件事故当時、加害車の後部座席に乗り、東に向かっており、背中を少し浮かせるようなやや不安定な恰好で北側の知人を見ていたとき、反訴被告黒田が右前を北東へ進行する自動車を発見し、衝突の危険を感じ、急ブレーキをかけたため、前につんのめり、その反動で後頭部を打った。
(二) 反訴原告は、しばらく様子を見ていたが、首が熱く、腰や足の痛みが続いたため、三日後に小原病院で診察を受け、長期間加療を要するが、とりあえず一〇日間の加療を要するとの診断書が作成された。
(三) 反訴原告は、小原病院及び神鋼病院で治療を続け、その症状は、平成八年六月一四日固定した。そして、症状固定時の傷病名は外傷性筋筋膜性腰痛症、頸肩腕症候群、自覚症状は項部痛、腰痛、不眠、他覚症状は異常なし、項部痛、腰痛など不定愁訴は後遺障害として残る見込みであるとの自賠責保険後遺障害診断書が作成された。その後、反訴原告は、自賠責保険において、自賠法施行令上の後遺障害には該当しないものと判断された。
(四) 反訴原告は、本件事故当時、カラオケ喫茶を経営していたが、本件事故の影響により、手を叩いたり、しゃべるのも憂鬱になり、閉店した。その後、夫経営のお好み屋でレジを打ったり、野菜を切ったりという簡単な作業をして手伝うことがあった。
(五) 反訴原告の治療を担当していた神鋼病院の西田医師は、反訴原告の症状固定時、他覚症状はないが、指先が痺れ、小指の物に当たるだけで激痛が走り、野菜を刻むこともできないなどとの反訴原告の愁訴から、「神経系統の機能又は精神に障害を残し、服することができる労務が相当な程度に制限されるもの」と考えられ、九級一〇号に該当するが、本件事故が少なくとも三〇パーセント程度は関与している可能性があると判断している。同医師は、反訴原告には、頸椎の五と六、六と七との間に変形性頸椎症が見られるが、これは加齢現象で、本件事故前からあるものと考えられ、反訴原告の現在の症状につき、反訴原告の年齢等も一因をなしていると考えている。
2 右認定によると、反訴原告の右症状固定当時、他覚的所見は見当たらないうえ、お好み屋の手伝いができていたことなどから、九級一〇号に該当するとは決していえず、一四級一〇号の局部に神経症状を残すものに該当するとみるのが相当である。
反訴原告は、一二級一二号の局部に頑固な神経症状を残すものに該当する旨主張するが、反訴原告に格別の他覚症状が認められないことに前記の後遺障害の内容、程度等に照らすと、一二級一二号に該当するとはいえない。
二 争点2について
1 治療費(請求及び認容額・四万〇七六〇円)
証拠(乙六の一ないし四八、反訴原告本人)によると、反訴原告は、平成八年一月二九日から同年六月一四日までの神鋼病院の治療費として合計四万〇七六〇円程度を支払ったことが認められる。
2 交通費(請求額・一一万三二八〇円) 六万円
証拠(乙七の一ないし九八、反訴原告本人)によると、反訴原告は、本件事故による通院治療のため、タクシーを利用し、合計一一万三二八〇円程度を支出したことが認められる。右認定に反訴原告の受傷の内容、程度等を考慮し、そのうち、六万円を相当な損害とみることとする。
3 休業損害(請求額・二四三万四四八〇円) 一六四万二一〇四円
前記認定の反訴原告の受傷内容、程度、通院状況等を考慮すると、反訴原告は、本件事故当日から三か月間程度は全日、その後症状固定までの五・五月間は半日分をそれぞれ相当な休業期間とみるのが相当である。
反訴原告がカラオケ喫茶を経営し、家事をしていたことは前記のとおりであるから、反訴原告は、その主張のとおり同年齢の女性の平均年収三四二万七〇〇〇円程度を得ていたものというべきである。
すると、本件事故による反訴原告の休業損害は、次の計算式のとおり一六四万二一〇四円(円未満切捨、以下同)となる。
3,427,000÷12×(3+5.5÷2)=1,642,104
4 逸失利益(請求額・六二九万二七九四円) 四六万七九五六円
前記認定の反訴原告の後遺障害の内容、程度にその他諸般の事情を考慮すると、反訴原告は、右症状固定から三年間程度、五パーセントの労働能力を喪失するとみるのが相当である。そこで、ホフマン式により年五パーセントの中間利息を控除し、本件事故当時における反訴原告の逸失利益の現価を算定すると、次の計算式のとおり四六万七九五六円となる。
3,427,000×0.05×2.731=467.956
5 慰謝料(請求額・三〇〇万円) 一五〇万円
原告の受傷内容、程度及び通院期間その他本件に現れた一切の諸事情を総合考慮すると、本件事故による原告の慰謝料は一五〇万円をもって相当とする。
6 小計 三七一万〇八二〇円
7 損害の填補
反訴原告が、反訴被告から本件損害の填補として三三万三五〇〇円の支払を受けたことは当事者間に争いがない。すると、右填補後に反訴原告が請求できる金額は、三三七万七三二〇円となる(なお、被告らは、小原病院における平成七年一〇月二日から同年一〇月三一日までの治療費九万五五八一円についても損害の填補の主張をするが、原告請求の治療費と対応するものではないから、認めることはできない。)。
8 弁護士費用(請求額・一〇〇万円) 三三万円
本件事案の内容、審理経過及び認容額その他諸般の事情を考慮すると、本件事故と相当因果関係のある弁護士費用は、三三万円が相当である。
第四結論
以上によると、原告の請求は、主文一項の限度で理由があるからこれを認容し、その余は理由がないからこれを棄却することとする(平成九年一一月一二日口頭弁論終結)。
(裁判官 横田勝年)